歯科医療と食生活改善
要約
口腔疾患とその回復処置。
歯科医療に患者の食生活のあり方は直接的にかかわっている。
それでは歯科医療とは、楽しく食事ができるように回復させれば、それで十全なのであろうか。
多くの場合、疾患発生の原因を除去することなく、組織に不調和な人工物で補い機能を代行しているに過ぎないため、病因は温存され、不適切な人工物装着使用のゆえ、かえって病状は増強され、再燃再発は必定である。
口腔疾患の主な原因は、口腔常住細菌の異常増加・停滞による。
この歯垢の除去を局所病因除去方法として、適正なブラッシング(口腔清掃法)の励行の必要性を40年間提唱し続け、ようやく一般化した。
しかし根源は火食、軟食、高温飲食、甘味添加食品などの不完全咀嚼の食習慣にあるため、この食生活の改善こそが再発防止の決め手であり、また初発予防対策の重要な柱であることは自明の理である。
適正なブラッシングの励行を、治療に際して必須初動の処置として指導し定着させ、位相差テレビ顕微鏡を用いて歯垢の理解、認識を感動的に行うことで清掃法励行のモチベーションとし、食事改善についてはW.A.Priceの著書「食生活と身体の退化」を全訳自費出版し、貸出して食習慣の見直しの重要性を認識させる方法としてきた。
そして、できるだけ固いものを1口50回噛みができるほどに回復させ、精咀嚼を習慣づけ、再燃・再発の無い状態を獲得・維持することをもって治療の完成とする臨床医グループを拡大しようとしている。
しかしながら、食事の内容改善については不明な点が多い。
諸先輩の御教示により、老若男女すべてを対象とする歯科医療に、正しい栄養摂取の指導法が導入され得るならば、国民健康作り運動の最も基本的な役割を果すことができると考えている。Key word 必須初動準備処置 病原歯垢の除去 歯周組織に対する自然良能賦活療法
司会(大黒)主催者に誤算がありまして、これほど多勢御出席あるとは予想しなかったので、少しく不手際のあった点はお許し下さい。では次に片山先生の御講演を拝聴いたしましょう。開会の辞にも申し上げた通り、御紹介は御本人の口からと致しましたので、それをお含みの上お始め下さい。
ではどうぞ。
はじめに
この題からは恐らく「歯が悪く,噛みづらいのを治す技術」とか、「歯を治して入れ歯になれば,軟いものを食べるように変えた方がよろしい」というようなことではないかと受けとられると思う。
いつの世にも歯が悪くて治さなければと思うとき、誰しも「元のように、いつまでも調子よく、これ以上悪くならないように治したい」と思うのであるが、歯科医療はそれに添って、いつも病状のより良い改善に向って努力を重ねてきたし、食生活との関係も、入れ歯の保全を考える点から、改善に努めてきたのではあったが、結果は期待通りにはならず、不満が高じ、不信が生まれているように思われる。(良い状態で長持ちするどころか、案外早く次々と悪くなる)。
希望通りに(完全に近くまで)治すためには,まず治療中、必ず病因を排除することを手がけ、それが出来たのちの修復でなければならないことが不可欠条件である。そのためには局所病因の歯垢(プラーク)の除去を習慣づけること、また病気の根本を正すために、できるだけ固い食べ物をよく噛むようにする。その上に、出来れば最も適した食事に改めるように !! と指導して、習慣づけなければならない。これから、このような歯科治療の必要性と進め方について述べ、それは治療効果を上げる重要な手段であるばかりでなく、その人の再発予防の決め手であり、家族をはじめ近親者に対する初発予防のための生活改善実践教育者の確実な育成にもなることを知って頂き、関連各科の諸先生方をはじめ、皆様方の御理解ある御援助を頂きたいと願うのである.
歯科医療に何を望まれるか?- まず,歯の痛みをうまく止めてほしい。
- 次は,支障なく何でも食べられるような回復。この2つであると思う。
そこで痛みを除き、蝕まれた歯を修復して機能回復を図るが、しかしそれが短期間に再発し、次第に重症となり、遂には何も噛めなくなるのでは困る。
だから第3の望みとして, - 治したものが長持ちしてほしい。できれば以後一生涯、再び同じ病気を起すことのないような治療、欠損組織の修復装置の永続使用が可能な歯科医療、再発予防を含む包括歯科医療が強く望まれている。
この第3の願望については、歯科医療に対してだけの特異な点と思われていたが、現今、社会の進歩に伴う疾病パターンの変化により、今や医療全般の問題となっている。
この第2、第3の望みをかなえるための治療、主に修復技術とその材料は、生物学的に生体親和性のあるイオン化傾向の少ない材料を以てしなければならず、それを口腔環境に適応性のある状態にまで作りあげるように、技術を高めなければならない。
その結果の医療は、いわば貴金属製人工臓器を、たった1つだけ、その人に合わせて1mmの100分の1以上の精密さで手作りし、装置する医療ということになり、したがってその費用はますます高価となり、経済的に行き詰まってくる。
例え最高の技術と材料を経済的に許せる人であったとしても所詮、修復は人工物で補われるのであって、生体組織に対しては異物の装着であるからには、その保全については長期にわたる定期的再検診による綿密な洞察と補填が必要である。
その点をわきまえず、病因温存のままの状態の元に装着使用するのであれば、必然的に口腔環境をより一層悪化させ、結果は短期間に再発して、長期使用の望みはかなわず、やりかえ、やりかえながら必ず重症となる。
非常に高額の治療費を費やしたとしても、このような構造的欠陥は補えない。
つまりこのことは、治療に際して病因除去の重要性を完全に度外視して、病変だけに対応する対症療法にだけ終始していたことの避けられない結末で、薬物投与による対症適応だけを療法として継続する薬づけ医療と全く軌を一にするものであって、このような欠陥歯科医療の改善が強く望まれているということでもある。
望みをかなえる歯科医療このような従来の医療の改善のためには、その構造的欠陥の根本に手をつけなければならない。そのためにはどうしても病因の除去を、治療の大前提として、不可欠な必須初動の処置(必須初動準備処置_片山、Initial preparation_Goldman)としなければならない。
口腔疾患の主な局所原因は、火食、軟食、高温食などによる歯垢(プラーク)の異常な付着・停滞・成熟であるために、治療に際しては、まず最初から治療の第1原則として、治療期間中を通して、局所病因除去の処置を効果的に常時励行し良好な口腔環境を保持できるようにしなければならない。
そのためにはどうしてもその行動を患者自身に受け持たさなければならないことが、この治療の重要なポイントである。
また困難な処置を実効の上がるように、患者を説得し指導することは、開業臨床の場では誠にやりにくいばかりでなく、特に時間的に困難で、現在の医療制度のなかでは不可能とさえ言わざるを得ない。
これを解決する方法として、もっと早期に発見し治療することが出来ればとの考えから、われわれ歯科臨床医もムシ歯予防デー、学校歯科検診を制度化し、早期治療と口腔衛生について各自が生活を見直し、改善に努めるような運動を興してから既に久しい。
演者も昭和15〜16年頃から学校、幼稚園歯科医として、乳歯保育、永久歯萌出、交換時期の保全のため、口腔検診と同時に食事指導、口腔衛生指導に努力してきた。
このような幼児、学童に対する口腔衛生啓蒙活動と、早期発見・早期治療も重要ではあるが、さらに、歯牙そのものの抵抗力の滅弱と歯並びの悪さ、顎の対咬関係の悪さ、また歯肉、歯根膜、歯槽骨の抵抗力の弱化をどのように防止し、健全化してゆくかについては、それらは妊娠初期から母体の食品栄養環境をはじめとする諸環境に関わるとされているところから、昭和23年、保健所法改正と共に、口腔衛生が母子保健衛生の中で口腔保健活動として枠組みされたその当初から、約10年間妊産婦に対する口腔保全教育にも努力してきた。
その間も、夜間開業医として臨床を離れることはなかったので、この両面からの活動の成果について比較、反省することができた。
元々は、開業臨床の場での患者一人一人に、病因除去の生活指導について十分話し合う時間の無駄を解決しようとして、学校保健、保健所活動に努力したのではあったが、そのどれもが健常時に大勢の人に対しての講話形式の指導であったためにか、知識的な感銘を与えるに止まり、行動につながるかどうかを知ることが出来ず、ましてや結果を見ることなど一切望まれないという虚しさが残った。
それに比べ、臨床にあっての病因除去の指導から進める生活改善指導は、相手一人一人が病気に悩んでいる時であり、「早く治して、二度と悪くなりたくない。治したその良い状態を長持ちさせたい」という気持が強く、治療のより良い成功、再発防止の指導を受け入れるに十分な動機をもっているので、実行にまで直結できること。
第2は、歯科治療は長期間を必要とするもので、したがってその間に病因除去の生活が治療に及ぼす良好な効果を体験させながら、習慣として定着するようにまで監督指導する時間と機会が十分もてること。
第3として、病因除去(病因歯垢の除去 Plaque control)の治療に及ぼすめざましい効果を認知できた反面、気付かなかった微細な手抜かりによる逆効果についても身にしみて分り、そのことから治療後の再発防止のためには自発的定期受診の必要性までもが理解される。
定期的再診、すなわち長期観察の結果、生活改善された日常生活の下での回復状態に、再発防止のための指導と処置がどれほどに効果があるかについて再評価することによって、治療あるいは再発予防に対しての指導の適・不適も確かめられ、かつ改めることすら可能である。
この3点は、病因除去のための生活改善について、他の機会に得ることのできない最良の条件が満たされていることである。また、これらの治療のための病因除去の活動を導き出す療養指導主導型治療の成果のなかで、最も重要な点としてあげられる特長は、この新しい歯科治療を経験した老若男女のすべての患者が、
- 治療には、自分で病因除去に努めることが不可欠であること。
- 長持ちさせる(再発を防止する)には、病因を作らぬ生活を続けること(再発,初発の予防の要諦の会得)。
- 歯科疾患は、早くから文明病といわれ、老若男女を分かたず、罹患者率についても、それらの代表格で、その病原本体が急激な食生活の変化にあること、また現代病、文明病の象徴的、先駆症状的疾患であること等々。
を理解し、回復治療を通して生活改善の実践者になるため、結果として、彼らを健康作り運動の実践的指導者、真の衛生教育者に仕上げることができる点である。
そして、その人達の生活改善の実践によって、まず家族全員に病因除去の生活改善が徐々に取り入れられ、家族の初発予防が達成されるという、家族もろともの着実な健康作り活動(プライマリー・ケアー)の定着が期待されることである。
とはいうものの、現実問題としての生活改善指導は、保険制度内では1点にもならぬことを行い続けることであるため、労力と時間をできるだけ縮小して、しかも有効な手段を選ばなければならない。
病因除去の生活を可能にする生活改善指導技術の1例- 病因の理解
ムシ歯や慢性辺縁性歯周炎(歯槽膿漏)の原因が、口腔常住細菌の異常な増殖・停滞(歯垢)であることを、あらゆる階層の一人一人に、ごく短期間に感動をもって理解させ得るか、それも疑惑と反感を持たれることなしに !!
その方法として、その人の歯垢を顕徴鏡で見せることを保健所で昭和23年から始めていたが、生菌の活動状態をそのまま見せるため、昭和45年から位相差テレビ顕微鏡に改め、現在も続けて行っている。
この方法は、歯垢の内容とその病原性を理解させ、同時に除去の必要性を最も短時間に、しかも感動的に理解させる方法と確信している。
- 病因除去の手技
また、歯垢の染め出し顕示法は、歯垢の残存を認知させ、今日までの自分の方法の過ちと不足を認めさせ(第5症例)、正しいブラッシングの指導を求める有効、適切なモチベーションを与える方法である。
a. 適正なブラッシング励行の確実な習慣形成
病因除去の適正なブラッシングとは、完全に病原性歯垢を除去し、なお病変組織に依害性なく、賦活性を備えるものでなければならない。すなわち歯周組織に対する自然良能賦活療法の謂れである(Oral physiotherapy)。謂れ
その症状に最適の方法は、日々、変化する病状に適応するものでなければならないので、その時点での適宜、適切な指導を必要とする。
しかしその指導された方法を適正に実行し、病因が除去された状態を常に維持し続けることは、患者にとっては容易でなく、最も困難な点は、1回30分以上、1日数回を必要とする場合が多いことである。
ブラッシングに時間をかけ、回数を重ねることが必要であることの理解の上に、やる気は十分であったとしても、また病気の治療、回復のためとはいえ、ある時から突然に、ごく普通に行われていた生活習慣を変えることは、対人的、社会的に(家庭・家族に対してすら)難しさが伴う。
些細なことと思われる生活様式の改善も、いざ実行となれば思わぬ多方面にわたる困難に直面することになるので、この点についての理解と援助を忘れてはならないと同時に、病因除去のための生活改善の効果のめざましさを示唆し、常にその行動持続の勇気づけに心がけ、また怠慢の必然的結果としての症状悪化を指摘し、療養厳守を強調する等々、指導は症状の変化に伴い啐啄同時に行われなければならない。
これらすべて、臨床にあってこそ可能な指導であることを銘記すべきである。
b.食生活改善について
イ.砂糖の制限
患者の病因除去の行動が、日常生活の中で行き詰まろうとしている時、例えばブラッシングの励行があまり長時間を必要とする点に困惑している時は、より短い時間で効果をあげる方法として庶糖の制限、すなわちコーヒー、紅茶に砂糖を入れないことだけでも実行するように提案する。
これは歯垢(プラーク)が蔗糖を摂取、吸収した場合、プラーク中の数種の細菌群が急速にグルカンを形成し、そのために粘着度を増しプラークの菌種・菌数が増大し、醸酸力を高め、歯周組織への刺激度を増し、歯牙硬組織(エナメル質)の脱灰力を増強する。
この歯垢の付着、粘着力が強化されることによって、ブラッシング効果が上がりにくくなることをまず理解させることから始め、蔗糖類制限の試みが、いかにブラッシング効果に影響を及ぼすかについて体験を通して納得させる。
ロ.食品の大きさ,固さについて
砂糖類制限が歯垢の性状に及ぼす影響について納得できれば、砂糖類だけでなく、口にする食品が歯垢の性状に関わること、さらに、食物の大きさと固さ、噛み方、噛む回数がどうあるかによって、歯垢を擦り取る作用と歯肉に加わる必要な刺激が十分になるか、不足するかについても理解されるようになる。
さらには、不完全咀嚼の悪習慣の是正に努め、またその代用としての歯ブラシの与える刺激が弱化病変歯肉を賦活することまで理解が進み、食べ物のあり方、調理法を注意するようになる。
ハ.食品全般の見直し
しかし、食生活改善の指導には、その人の生活現状を詳細に知ることと、また病状改善に役立つ適確な食品の栄養的改善指導の学問的基礎知識を持つことが必要であるが、これらを知ることは誠にむずかしい。
そこでまず,食生活全般の見直しについて考えて貰うことが必要と思い、W. A. プライス著 NUTRITION AND PHYSICAL DEGENERATION
—A Comparison of Primitive and Modern Diets and Their Effects—(食生活と身体の退化一未開人の食事と近代食・その影響の比較研究)540頁を全訳自費出版して貸出し、読んでもらうことによって各自の食事の現状の見直しの必要性を強く感得させることが出来ている。
ちなみに著者プライス博士は、口腔疾患の治療、予防にはどうしても健康な歯牙口腔を積極的に導き出す方策を見つけ出さねばならない。そのためには、現に完全な健康状態を維持している人達,部族,種族を探し出し、そのよってきたる諸条件、特に食生活を調べること、また諸部族が近代文明に接し文明食を摂るようになると、どのように弱体化、悪化した状態になるかを、未開種族の生活実態をドキュメントし、食生活をこまごまと調査記録し口腔検診を行い、それらの部族が交易の結果どのように食生活が乱れ、どのように身体的影響を及ぼしたか等を克明に観察記録した。
書の中で、文明食が与える影響、特にう蝕の多発と子供の顎のディフォミティー、歯列不正が著明に現われているかを写真で示し、う蝕罹患率はすべての場合、60、70倍から300倍にも変化していること、顎に及ぼす影響も顕著で決定的なものだと述べている。
それだけでなく、それらの食事内容の変化を家畜に実験し、同様な変化あるいは、人とは見られない恐ろしい変形などを述べ、さらにそれらの変化は遺伝ではないということ、つまりそのような奇形の家畜を元の正常な食餌に戻した場合、すべて正常な仔が生まれることまで調べ、また食物のどのような要素によるものかも調べている。
そしてまた、太平洋戦争の頃のアメリカの状態を、合衆国上院の発表を引用し、例えば妊娠した100人のうち25人が死産であること、その死産の内容がまた恐ろしい状態で、15例が驚くような奇形児であるということ、そして75人の出生児のうち28人が、15〜16歳までに退化病がもとで廃疾者になっているということ、結局男23人、女23人が正常で残されるだけである。その23人の男子も約半数が兵役に耐えないような弱体であり、またアメリカ24州の調査によれば、ある州では住民の3人に1人が、何らかの社会的管理を必要とする者であることなどは、近代アメリカ文明が人間という自然に対し破壊的に作用している結果を示している、と述べている。
この図書についてわが国では、1973年8月のモダン・メディスン19)に、Walter. C. Alvarez,M.D.の署名記事「医事随想」の欄で、
「広範囲にわたる調査旅行中に撮った各種族の顔と歯の写真417点もその著書に収録されている。…… 1970年の同書の末尾には、プライス博土他によるいくつかの食物の薬効についての研究報告が記載されているが、これらはきわめて有望なものばかりで …… 今迄に読んだ本のなかで,いろいろ考えさせられるという点で忘れられないもの」と紹介している。
c.疾患のためにゆがめられた噛み癖
歯科医療においてはほとんど毎常、欠損組織の修復や、欠損歯の補綴によって咀嚼機能の回復処置が行われるのであるが、治療を受けるまでの長い期間、痛みを避けて噛もうとしていたため、また無意識に身体的危険を避け、より安全に噛むために習慣となった間違った噛み癖を、多くの場合そのままで、それに合わせるように入れ歯が作られる。
痛みが無くなり、都合よく噛めるようになれば噛み癖が自然に正常に戻る。
戻るにしたがって今度は、治したその歯のあり方がまた不都合な存在となって、噛む度毎にその歯を支える歯周組織に外傷性の刺激を与え続ける。
その結果、組織はディストロフィー(異・栄養症)におちいり、入れ歯もろとも歯がぐらついて抜け落ちる。
そこでこのような必然的な不都合、外傷性咬合の原因を作らぬように、必ず噛み癖直しを必要とする。
長い間に出来上がった偏った噛み癖を短期間に直す最も良い方法は、痛くなく不都合なく噛める仮義歯を用いて、「1口50回噛み」を厳守実行することである(ちなみに一般平均咀嚼回数は1口2〜3回)。
第2週は、前回の処置・指導の効果のチェックと、それに加えて唾液の分泌量とその効果について簡単に話す。
第3週は、「1口50回噛み」のやりやすいものは、軟らかい食品よりもかえって固いものであることや、固いものを50回噛むことによって、種々の食物の真の味わいが分かること等の体験が語られるようになれば、次に食品の調理、栄養バランスについてなど図書貸出しによって理解を深めてもらう。
ま と め
我々の現在属している老齢化、高度工業化文明社会のもつ、以前とは変化した疾病パターンに対応する医療は、生活そのものの中にある病因に対処する技術の高揚と練磨こそ緊急、最重要課題であるとして、相応に向きを変えなければならない。
その最も一般的代表的と言える口腔疾患は、そのほとんどが食生活の急激な変化、すなわち火食、軟食、高温食、輸入食品、甘味添加食品などの不完全咀嚼の食習慣に病因の根本があるため、歯科医療における治療にも予防にも病因除去が必須であり、すなわち食生活の改善が根本命題である。
治療に際しては、病状に対応する処置だけでなく、治療の第1原則としての病因原去を、必須初動の処置として、それが患者の生活改善にまで及ぶとしても周到に練り上げられたあらゆる生活改善指導の技法を駆使し、患者の病因排除の日常生活、特に食習慣改善を成就させなければならない。
それには、治療の初めから治療期間中を通して、患者は病因排除のために行う療養を、治療に参加し分担する者の義務と考えて行うほどにまで進めなければならない。
それは、従来の患者教育、療養指導、健康保全教育と称せられ、行われた方法では、かえって逆効果になる場合が多く、指導技術の改善、特に動機づけの方法および技術の確立が急がれ、望まれている。
演者は、過去40年にわたる臨床的生活改善指導の経験から、口腔局所の病因除去については、位相差テレビ顕微鏡による歯垢の生菌内容を見せることなどによって、適正なブラッシングによる歯垢除去の習慣を達成させ、また食生活改善については、プライス博士の著書を読ませることによって良好にモチベートしてきた。
その治療効果の長期観察記録、多数例を供覧して、現在広めようとしている臨床のあり方、すなわち病因除去の必要性かつ重要性と、病状改善に対応する処置等を説明し、さらに病状を改善する食品の栄養的内容を適確に指示し、実行させ、評価できる方法を模索している現況について述べた。幸いにして諸先生方の御理解、御協力、御援助を得られるならば、歯科臨床を通じ国民老若男女すべての食生活の健全化を効果的に進められ、健康作り運動に大きく貢献できるであろうと期待している。
質疑応答
司会(大黒)遅れて始めたので大分縮めてお話下さり恐縮でした。一般に体は健康でも歯だけは駄目な者は随分多く、歯医者さんの手にかからない者は甚だ少ない筈ですが、当会では珍しい演題であります。さて日野博士の場合も片山博土の場合も根気がないと治療を成功させることができない点が共通して居ります。予定時刻は過ぎましたが5分ばかり捻出しますから、御発言の方がございましたらば……。どうぞ。
高木健次郎 噛まなけりゃならないような堅い食品の例をあげてください。
片山 私は、どの食べ物とは申しません。その方が、堅いと思う、今まで食べられなかった、そういうものを少しずつ堅いものに変えていけと、こういうようにお話します。しかしその中で、鮑だとか、どうにもならないもんがありますね。入れ歯では。それは、あなたにはだめですよと、いうようにお話します。それ位のことでよろしゅうございますか。
大黒 はい、どうも‥…。
高木 そうしますと繊維質の、植物性食品も噛むに値する食品になるわけですか。
片山 そうなんです。繊維性の野菜だとか、そういうものはできるだけ多く、そして生で噛むということを進めております。野菜の生食をしますと、歯垢は大部分、簡単にとれてしまいます。
大黒 他にございませんか。それでは、あとは総括討論にゆずって、これで終わることにいたします。どうもありがとうございました。
生態栄養 No.6, 29~37, 1982
再度の質疑応答
講演会に引き続き総括討論が行われた。まず「緑の環境創造」、その環境作りの問題点などについて、『生態学的栄養学』という立場から話し合われた。
その後、片山の発表についての質疑が行われた。(一部要約)
最勝寺(座長) ありがとうございました。
今日は歯科の問題ですね。
特にこの「歯科医療と食生活改善」ということで、関西からおいで願っている片山先生がおられるのですが、フロアの方も歯科医の方がおられますようで、この歯と栄養に関する問題で少し議論を進めたいのですが、フロアから何か御意見ございませんでしょうか。高木健次郎 じゃ、ちょっといいですか。
最勝寺 はい。
高木 片山先生と日野先生にちょっとお聞きしたいのですが……。
最勝寺 はい、どうぞ。
高木 片山先生のお話があったから、ちょっとお聞きするのですが、最近の歯の治療は抜かないでやるということなんですが、どういう見込みなんですか。その医学的な根拠をちょっと御説明いただけませんでしょうか。
歯根から新しい歯が生えてくるんですか。最勝寺 お願いします。
片山 御質問の意味がよくわかりませんが、抜かないようにするっていうことは、歯根や新たな歯が生えてこないからなんですよ。
歯根が延びてくるのでは……と御覧になったのは、歯肉の腫れがとれたために見えるようになったので、歯肉の病気が治った現われでして、永久歯っていうのは、抜けますと、もう第3回目の入れかえは不可能でございまして、ですから、大事にして、慌てて抜かないと、こういうことなんです。
で、抜いて入れ歯にすればいいじゃないかということで、早く抜いちゃおうという御意向も多いようですが、しかし、これは、抜きました後の始末の入れ歯が、どうなっていくかって言いますと、先ほども、ちょっとご覧頂きましたように、最後は1本無しになります。
1本無しになった時に、その方が入れ歯に頼らないで、自分の歯ぐきだけで、食べ物を食べる努力をしていただいたならば、案外、顎堤が長持ちして歯無しで顎だけで食べられるんです。
ところが、入れ歯でよりよく食べようととすると、えてして、顎の、まあ、患者さん一般の方は土手っていいますが、顎の歯のない顎の骨でございますね。
これが、入れ歯の機械的、不当な刺激によって、どんどん吸収をおこしてしまいます。
それで、下の顎は、小指の太さもないほどの骨になってしまうんです。
上顎は、ジーヌスの下部に、やっと天井が薄く持つだけになってしまいます。
ここにこう、関節があるんだからというんで、努力して上下咬み合わせようとしても、上と下とあわなくなってしまう。
そうすると、顎だけで噛むということは、どうしてもできなくなる。
だから入れ歯に頼る、入れ歯は土手がなくなれば、安定しない。上の入れ歯は落ちますし、下の入れ歯は左右前後に揺れてとても噛みづらくなるわけです。
その辺のことがどうも1本無しにしてしまった後、十数年もすると、上下顎両方とも、そのようなありさまに落ち込んでしまうのですね。
ですから、これから、80歳、90歳位か、皆さん終りっていうことになりますと、それまで、上手く食事をして頂くためには、早く抜かないようにしなければいけない。そういうことを努力している訳です。最勝寺 よろしいでしょうか。
宮脇 ちょっと、関連して、よろしいですか。
どうも、フロアの皆さんが、お尋ねにならなきゃいけないのを、申し訳ございませんが、私も片山先生のお話を承わりまして、大変素人でありながら、ショックを受けると同時に勉強になったのでございますが、先生の御本をこれから読ましていただくつもりでございますけども、具体的に、よく歯をみがくということと、固い物を食べるということ、この2つを御提案して下さったのですが、その他に、私たちが、自前の弱い歯であっても、長持ちさせて、健康に生きていくということについて、もうちょっと分かりやすくて、素人向きのする具体的な日常に対して、御提案がありましたら、卒直な…。先生があまり学問的におっしゃるので、よくわからないので・‥。片山 はい、わかりました。まず第1に、歯磨き剤は使わないこと。絶対に。
宮脇 あの,コルゲートとか、ああいうのですか…?
片山 ああ,何でもこれが第1です。それと、そうですねえ。
宮脇 他にもノウハウがあるんでしょうか、ないんでしょうか。
片山 いや、案外、ノウハウというのか、奥の手というのか、手間を省いてという、そういう方法はございませんので、申しわけございません。
宮脇 普通のブラシですか。
片山 そうですね。とにかく、普通のブラシでもって、丁寧に時間をかけて、特に食後に汚れを落とすっていうことなんですが、口の中の常住細菌が異常に繁殖してへばりついて、その、汚れを落とさない所、掻き回さない所にできると、丁度糠味噌をかきまわさない不精な奥さんみたいなもので、酸っぱくなっちゃう。
それと同じことで、口内の細菌が異常繁殖して虫歯ができる。
あるいはまた、歯槽膿漏になるっていうわけで、引っ掻き回して、こすり取ったり、掻き混ぜて、いつも交替させているということが大事なので、しかし口中に1匹も口腔細菌を居ないようにしようということではない。
いったい腸内細菌というのは、どこから入ったんだろう。
腸内細菌が薬物によって、いろんな変わり方をして、エコロジーが変わった時にまた、元へ戻すのはどうしたらいいんだろう。
やっぱり、口腔細菌、常住細菌の健康な姿が、それを導いていくと、私は独断しております。ですから、歯をみがいて、つばをはいたり、うがいをして吐き出すのは、もっての外だと、私は思います。
で、みんな、笑われますでしょ。これがね、大体、大間違いなんですよ。
なぜ、汚いのか。そりゃあ病気を持って、膿を特ってるその姿は、よくありません。
だけども、それを、一応健康にまで戻せば、あとは歯をみがいていない人種だってこの地球の中には、いくらでもいます。それで、その方が丈夫なんです。
アメリカはね、やたらと歯をみがいたり、歯科医学をすすめていながら、50歳の人の50%は1本も歯がありませんよ。
60歳だったら65%位、もう無くなってる。日本の方が、ずっと、まだ残っています。
朝鮮韓国はいかがでしょう。
日本より、もっともっと残っている。みんなどうも変にいじくるだけで、根源的な病因である食べもの、食べ方の間違いを正そうとしないで、ますます悪くする。それは我々の罪だったのかもわかりません。だから、そこを反省していくっていうことは、一遍治せば必ず一生持つように。ところが、持つはずのないものをもたしてもらわなきゃならんわけですから、患者さんの歯を悪くする原因をできるだけ、生活の中からなくしてもらう。
そのように御協力願わなきゃいけない訳なんです。あまり、いい手というのはございませんね。宮脇 はい、1点だけでよろしいんですが、例えば入れ歯をしますね。
あるいは、被せますね。被せた所を意識的によく使った方がいいんですか。
何となく、そこはあんまり使うと、ひっこんじゃってダメになるんじゃないかと思って、他の元の歯を使いたがる。本能的にする所がありますけどね。
それはどうなんですか。人工歯では、食べ物もうまくない……。片山 入れ歯もね、すーっと取り外せる入れ歯、それと、抜けた所を、隣の歯にもたせて橋をかけるようにくっつけるのだとか、1本被せるものとか、いろいろございますが、今のお話しは、被せるような……。その歯は元々栄養を司る歯髄という、一般に神経と言うんですが、それと歯の根の周りを固めている、骨膜のような、歯根膜と、両方で、栄養を供給しているんですが、多くは、治療の際に、歯の真ん中から栄養を供給している大事な神経を取ってるんですね。だから、半分しか生きてないんです。
そのような弱った歯は、やはり,ちょっと噛みづらいところが出てきます。
ですから、やはり庇ってやるというようなことは、あってもいいことですが、庇いすぎは、やはり良くないと思います。最勝寺 ありがとうございました。
中山光義(合掌苑、診療所長)東京都の保健所へ勤めたことがある医者で、ただ今、町田市の老人ホームの健康管理やっているものですけれど、この席で、場違いな発言かもわかりませんけれども、片山先生にお願いをかねて、申し上げてみたいのですが、今お話聞きますと、小学生の歯の問題なんかは、健康をむしばむ一番大きな問題ではないかと思います。
こうした時に、私は、保健所にいた時から痛感しておりましたが、今、小学校の給食に非常に大きな問題があるのではないかと思います。
全国に5万と歯科の先生がおられるということを承りましたけれども、この先生方が、圧力かなんかでもかけましてですね。
こういう風にして頂かないと、もう協力できないという位の姿勢で路線修正をやらないと、この歯の問題を含めての健康作りということは、困難なような気がするのです。
特に、その1つ2つ例を取り上げてみますと、今、噛むことが大切だと言いましたけれども、今の学校の給食に、果して本当に噛まなきゃいけないものがあるかどうかです。
非常に軟らかいものが出ましてですね。簡単に、ちょっと口を動かすと、食道に入るようなものが多いようです。もっと噛まなきゃいけない、噛む努力を必要とするような食品、給食が大切じゃないかと思います。
それから、まだいくつもありますが、もう1つはですね、日野先生も提唱されております、未搗精の穀物が必要だと言われておりますけれども、残念なことに、学校給食で、食糧庁が、米の消費・拡大を盛んに唱えております。
米々といっておりますけれどね、学校給食は、精白米でなければ、食べさすことができないのです。 60%の補助金をもらってですね、安く給食はできるわけですけれども、最初の1年間は70%ですか、ちゃんと米を給食する場合は、1週間5日食べさせても全部補助金をくれるわけですけれども、どこ行ってもですね、全部精白米で、しかも、丹念に作業員がゴシゴシゴシゴシこれを洗っておるんです。
洗って、極端に言うと、糠を東京湾にどんどん流しておると、こういう現象なんです。
ここらあたりを、何とかして、歯科の先生の御努力で、これではだめだと、未搗精米、少くとも胚芽米、あるいは、この糠の若干残った米を食わすようにしなきゃいけないというようなことを、訴えて提唱して頂きたい。
そうじゃなかったら、もう協力できないというようにやれば、私は、金の問題、米の消費の問題も一挙に解決するんじゃないかと思います。
それから、病院でもですね。東京都にも、たくさん都立病院がありますけれども、私が聞いた範囲では、未搗精米とか、七分搗きを食べさせているところはあんまりないようです。
ぜひ一つ、米の問題、未搗精米というようなことを取り上げまして、歯科の先生方のお力で、これをやっていただくと、健康作りに役立つのではないかと思います。
それからこれを言いますとですね。お米屋さんは大変喜んでくれるのです。
もう、モーターの回転時間が少なくていいから、ぜひ一つこれをやってくれと言うのです。
私、ハツパかけられたことがあるんですけれども。手間がかからないということ、それからゴシゴシ洗うこともですね、作業員に聞いてみますと、「洗わなくてもよかったら、大変結構だから、是非それを進めてくれ」と、こういう笑い話めいたことが出ておるのです。
それから、日教組でしたか、どこかで、私、ちょっと提案したことがございますけれども、そういう米を出しても子供が食べられないと言うのです。
そんなことないんです。
私もあっちこっちで、随分実験していますけれどね。
白米より、よっぽど喜んで、子供は食べてくれます。
それから、すぐ腐るというのです。
私よく言うのですけれど、「腐ったら,持って来なさい」と。
全然腐る心配もございません。
夏でも今日炊いた米、明日の昼弁当に持っていってもですね、ちっとも腐るような心配ございません。
それから、匂いとかね、あなたはそれじゃ、匂いかいだことがあるのかといいますと、いやそんなことはないと。
こういう無責任な答が返ってきて、がっかりするのですけれども。歯科の先生方の御努力でですね。
この路線修正というような所へ持っていっていただきたい。
私は、米の消費拡大は一挙に解決してですね、日本人は元々、米を食う民族でなきゃいけないと思うのです。
今、関節の話が出たんですが、私の恩師の二木謙三先生は、「諸君、ここはコメカミというんだ」という、「パンカミではないよ」と言われたのです。
この発想でいけば、私は、米の減反なんていうのは、おかしいと思うのです。もっともっと米を作ってですね。
アメリカから何百万トンという小麦粉を買っている訳なんです。
そうやって学校の生徒にですね、あの蛋白質の組成にしましても、ビタミンもあんまりないんです。
こういうのを食わして、学童の子供を弱くしてるんじゃないと思うんです。
そうやってパンを食わしておってですね、多くの方が、教職の方々ですが、大変失礼ですけれども、「アメ公帰れ」なんて言うのは、ちょっと間違っているのではないかと思うのです。
もっと米を食うような、そういう国柄にして頂きたいと思いまして、発言申しあげました。最勝寺 いかがでしょうか。今の御発言に対して、片山先生いかがでしょうか。
片山 私ですか。
最勝寺 はい。
片山 学校の給食については、私、興味をもって、終戦後協力いたしました。
これは、ララ物資(アジア救済連盟による救済物資)の脱脂粉乳の問題から関わって参りましたのですが、現在は全くタッチいたしておりません。
昭和30年頃から、完全に手を引きました。
丁度30年頃は、日教組という力が出てきた時分で、校長の声がかりでは何もできなくなってきた。
そういう時で、我々が何をしようとしても、組合の賛同がなければ出来ない。
当時では、どうしても日教組の力に蹴散らされてしまうというような、これは、私の感じということにしといていただきます。
ですから、手を引きました。今では1人1人の母親が、手をつなぐのでなければ動かないというように堅く信じるようになってきております。
母親に力を付けていくと、こういうように努力を変えたわけです。
例えば、今の歯磨き剤の問題でもそうなんです。
私は歯磨き剤を禁止することを大学で口腔衛生、あるいは予防歯科というようなところで努力してまいりましたが、歯磨き剤を使うことはよしなさい、無益なものだという人は1人も出ないんです。
しかし、消費者連盟が、これを調べた時には、りっぱな効果をあげております。これなんですね。だから私たちは、開業医全体が自分の受け特つ診療の中で、分かって貰った人達の生活改善の実行を広げていく力、これ以外には手が出さないと、こういうように思っております。
保健所でも10年ばかり努力してまいりましたが、これも結局は、虚しい思いをしました。
そこで、私一人で、自分の診療所だけで、そして同志の歯科医を募りながら進めていこうと、こういうことに変えております。
現状はそういうような状態でございます。最勝寺 ありがとうございました。いかがでしょうか。
まあ、今、フロアからの発言ですと、歯の健康の問題は、結局全身の健康問題に繋がり、現在の食生活に対して、1つの軌道修正が必要ではないかというお話でした。
今日は、栄養関係の人、あるいは歯科関係の人がたくさんおられるようですので、フロア同士でもけっこうですから、何かその他の議論、ございませんでしょうか。要するに今までの、これは、私は栄養の立場で言うのですけれども、食べものによる健康というのは、どちらかというと、物ばっかり見ていて、食べ力は,全然オミットしていたという嫌いがあるわけですね。
今日のお話ですと、要するに食べ方の問題に、かなり歯の健康を通じて意味があるというお話が出てきた訳ですけれども、こういうことを関連して考えて行きますと、文明開化と共に食事が甘くなり、柔かくなり、あったかくなったことが、歯の問題を相当レベルダウンしてきたという風になっております。
で、こういうことについてそれぞれ皆さん、健康のいわば指導者ですので、この機会を借りまして、何か、そういうことについて、普段から、私はこう思うという風にお考えの方は、御意見をお出しいただきたいと思うんですが、いかがでしょうか。
はい、どうぞ。難波三郎(日本栄養士会理事長)今の言葉に答えられるというわけじゃないのですが、先ほどから、学校給食とウ歯の問題が出ておりましたけれども、ちょっと付け加えておかないと誤解が出てくるのではないかと思いますので、申し上げてみたいと思います。
私、日本栄養士会の難波でございます。
学校給食のお米の問題は、今、町田の先生が、御指摘になったように、原則は白米なのですが、文部省から通知が出ておりまして7分搗き米とか、胚芽精米を使うことが望ましい、また麦の混食も結構であるということが出ておりますので、白米だけが学校給食のお米であるということではないと思いますので、一つ御理解頂きたいと思うわけです。
それから、歯の予防の問題で、歯ブラシの使い方の御指導をいただいたわけでございますが、これは、ウ歯の形成する要因として、3つの要素があると言われておりますが、その中には、あまり御指摘がなかったんですが、歯質をよくするということからしますと、やはり歯髄・歯根・歯ぐきの栄養環境、栄養のお話が出ましたけれどもやはり食べ物のバランスということを同時に指導していかないといけないんじゃないかと、いう風に思うわけです。
それで歯ブラシというのは、私どもが理解している範囲では、ムシ歯だけでなくて、歯槽膿漏の予防にもなると、岡大の歯学部の西島教授が言っておられますけれども、歯槽膿漏で診察を受けに来た患者さんにてすね、もう最初、何も治療しないし、ただその歯ブラシの指導をする。
1週間ないし2週間、それを実行するかしないかをやらせる。それがムシ歯予防というのではなくて、歯ぐきを刺激することによって、歯槽膿漏そのものも治療することになる、という御指摘があったのですが、そこいら辺は、私ども専門家でありませんから分かりませんが、ムシ歯予防の方法とそれから歯ブラシ、ブラッシングの意味というものについて、片山先生に、今一度御指導いただければ有り難いと思うわけです。以上です。最勝寺 片山先生、今、ブラッシングのその具体的なことというお話が出たのですけれども、だいたいその何分位…。どういう風にやったらいいのか。
片山 ブラッシングにつきましては私40年間やっておるのです。
初めはブラッシングで歯槽膿漏を治せるなどということ、よくなるなどということは笑われていました。
しかし、私の持っているデータ、実証しているものを御覧いたいたと思いますが、20年、30年経過しております。
レントゲンを見て頂きましたのは、あれで、当初抜かないで済むようなものでは決してございません。
それが30年も持っているという実証を引っ提げて、私は、どうしても、ブラッシングで効果を上げていくっていうことを、今まで40年言い続けて認められてきました。
それでやっと今、ブラッシングということが定着してまいりました。
ところが、それではどういう方法かと、すぐ話が来るわけです。その方法っていうものは,健康時の予防のためなのか、悪いのを治療するためなのか、その時、その方の状態に合わせてブラッシングを指導しなければならない。
それと同時に、その時の、その方の状態は、先ほど見ていただきましたように、1週間経てば見違えるほどよくなってまいります。
そうすると、ブラッシングの方法は、どんどん変わりますし、ブラシの形態も変わってくる。
つまり,簡単に力強く,短時間で,効果の出るような方法が取れるわけです。
ですから一概に、どう磨くのかと言われる、そのことは、今まで、どこでもお話しておりません。
だから片山の話は、いつも総論が90%で各論が10%だ。あるいは、総論オンリーだと言うようなことをよく聞きます。
各論は、総論がわからなければ各論に入れないんです。
ですから、ブラッシングっていうことは、本当は要らないんです。
ただ、軟らかいものだけ食べているからこそ、必要なわけなんです。
自動車やエスカレーター、エレベーターに乗っているから、何だか、ジョギングやったりしなきゃならない。
それと同じように、食べものを元々の正しい姿に変えていけば、ブラシなんて要りません。だから問題は食べものだと思います。
で、精白小麦粉食品などというものは、私は絶対に反対です。
それから白米も反対です。それから、やたらと霜降りの肉しか食べない人はどうしようもないです。まあ,そんなことなんです。最勝寺 はい、ありがとうございました。他にフロアから‥・。どうぞ。簡単に。
中山 あの町田の中山ですけれども、もう1回。
今、末搗精米と、麦と食べてもいいというお話ですけれども、これは昭和51年に確かに,文部省からそういう文章が出ております。
私も文部省にクレームつけに行きまして叱られましたけれども。
しかし、現場ではですね、学校を設置した市あるいは県の教育委員会と、学校給食会と契約することになっとりまして、具体的には、それはできない状態なのです。おそらく全国で,そういうのをやってる所は,ないんじゃないかと思います。
それを私、非常に残念に思います。
具体的にはどうしてもこれは出来ないということのようです。それから、ついでにと申し上げては失礼ですけれども私、日野先生の提唱しておられます、栄養学に対する考え方、大変尊敬しておりまして、私、町田の老人ホームでこれを応用しておりますが、2年位前から大変効果が現われましてですね、ちょっと笑い話だと思って聞き流していただきたいのですが、私が面倒見ている所、平均年令は81歳ですけれども、大変死亡者が少なくなって、あまり、出なくなってきました。
大変健康です。
まあ、そういうことですね、この死亡者がでてきますと、ああいう所は、国の費用で賄っておりますから、次に待機して待っておる方が入ろうと思って待っとるわけですけれども、出ないもんですから待っておる方の方が、先に気の毒なことになっちゃうと、私も困っとりますけれど。
そういう現状でですね。
こうした栄養学は、特にこの中年あるいは高令者の健康作りには良いのではないかと思っとります。
是非この学会が頑張っていただきまして、もっと普及拡大を図っていただきたいと思います。
それから、米の問題ですけれども、私、試験しまして、町田の聾唖学校がありますけれども、ここで、未搗精米をやってますけれども、全然1粒も残さないと言ってもいいと思います。
今まで食べておった給食より、「よっぽど、うまいうまい」と言ってですね、ハンディのある子供たちが喜んでおります。
それと今の、私が申しあげました老人ホームも、もう七分搗きとかそういうのを頼んでもなかなかお米屋さんが作ってくれませんから、もう面倒くさいと思いまして、精米機、買いました。
これは8万円で買えます。
それを買いましてですね、全部半搗き米にしておりますけれども、それから、健康状態が変わって来まして、今、医療費もですね、ちょっとオーバーですけれども半減したと言ってもいいと思います。
それで、よくクラス会なんかで、私が、冗談めいた言葉で申し上げますと、あんまりそんなことが広がって行くと、我々医者が、メシが食えなくなると、こんな笑い話も出るようなことをですね、ほんのちょっと給食の路線修正ということで、非常に健康状態が変わっていくということを、私、実地で見ておりましたので、追加申し上げます。最勝寺 はい、ありがとうございました。他の先生は…?よろしいですか。
あの、フロアの方にですね、公衆衛生院の相談先生がおいでかと思うのですが、先生何か、今日の会議、一つ、御意見をお伺いしたいのですが……。相磯富士雄(国立公衆衛生院衛生教育室長)大変すばらしいお話を伺うことができまして感謝している次第でございます。
今さら付け加えるようなことはございませんが、2、3の感想を申しあげたいと思います。私も日頃から健康という立場からの食物観の確立を痛切に感じているものでございます。
現在のように、日本人の食べる食べものが急速に変化している時代はございません。
明治以降の食物の質の変化、特に戦後の技術革新後の食物の質の変化は、歴史上いまだ経験したことのないような激しい変化の時代でございます。
このような食物の急激な変化にたいして、すべての日本人が食物の急激な変化にたいして、すべての日本人が適応できるであろうかという心配がございます。
それでは、このような時代に一体どのような食物をつくり、食べればよいかという問題がでてきます。
そのためには、食物と人間との関係、食物の質、構成等と人間の健康との関係についての歴史的な視点から、食物を考えるということでございます。
そのような視点で、食物の材料を選び、食物をつくることです。
生物の長い時の経過の中で、食べものの質や構成、体の動かし方の変化に対応して、われわれ人類の体の組成、構成も少しずつ変化してきております。
固いものを噛んで唾液を十分出して食べる生活、その中で下顎を発達させ、唾液は消化を助けるという作用がなされていたのが、現代は、ほとんど噛む必要のない食物の時代になってきています。
宮脇先生が先程申されたように、われわれが生存している現代は、長い生物の歴史、ヒトの歴史からみれば、ごくごく短かい時点でございます。
そのような短い期間であれば、きわだった変化があってよいはずはないのですが、歴史の連続性に逆らうように、生活が、食物が、歴史の流れから突出して大きな変化をしている時代と思います。
生物の歴史の中での2つの大きな変化の時点、酸素の出現期、水中より陸上での生活にうつった時期、これらの時点に相当するほどの大きな変化の時期だと指摘している人もございます。
このような時点に生きるものとしては、食物歴史をたどり、今までの連続線上の食物材料、食物構成を大切にすることでございます。
したがって「温古知新」でございます。ただ「復古」はいけません。
生物は矛盾を解きながら発展しており、元に戻ることはございません。
ともかく適応に余計なエネルギーを使わないこと。
もう1つは、栄養学の問題でございます。
現代栄養学は、たかだか百数十年の歴史で、まだまだ未熟の段階にあります。
したがって栄養学で考え納得いかない場合は、もう一度歴史的に人間と食物の関係の中で、現在の疑問を位置づけて考えるべきでしょう。
第3には、自然科学と社会科学の両側面からの統一的把握です。
人間は生物であり、生物の原則から外れることができません。
が同時に社会的生物であり、自然科学的な見方だけで判断するのも片手落ちでございます。
発言の機会を与えて下さり有難とうございました.最勝寺 ありがとうございました。それから司会を担当しておりました大黒先生,最後に何か発言ございませんか。
高木 ついでに1つだけ、日野先生にお伺いします。断食がどうして治療に効果があるかということです。
日野 一言で申し上げると「わからない」ということだろうと思うのですが、ある意味では、断食ばかりではなしに、生命現象自体が、医師に分かってないと思っているんです。
分かったように錯覚を起こしているだけのことで、ただ、かい間見たところの範囲で理解したような気になっいるだけのように、少なくとも私は、そう思っているわけですが。
しかし、今の段階では、それもやむを得ないと思うのですね。
ですから今日、3人の先生方が、いろんなところでおっしゃったと思うのですが、いろんな点で共通の考え方が、随分あると思って、嬉しく思っていたわけです。
それを、非常にマクロ的にムリに申し上げますと、このごろ生物学の方で、バイオリズムということが言われていると思います。
大分、無理やりにこじつけたようになるかも知れないと思うのですが、普通の生物から見てますと、生まれてから死ぬまで、3度なら3度と、極って、決まった時間に食べる。
一面、それもバイオリズムかもしれませんけれども、自然界では、そんなにエサが常にあるわけがないので、人間がいろんな栽培をしていて、世界中の人口の約10分の1だかが飢えているとも言われている。
飢えてない人間だけがけっこう食べている。しかも、バチ当りに食べすぎている。
ことに慢性病の大半は、何らかの意味での食べすぎからの影響がある場合が多いだろうと、私は思っているわけですが、そこまでして、食べることを奨励した方がいいのかどうか。
自然界では、当然、餌が見つからない時には、やむを得ず絶食になっておりますでしょ。
それは所謂人間の時計で考えたようなバイオリズムにはなってないかもしれません。
もっと大きな物差しを当てれば、ある意味で、それもバイオリズムかもしれない。それから、食べすぎがある程度、何か関連がありそうであるなら、学問的にはっきり実証できないにしても、生物学的っていいますか、生態学的に言えば、そういう可能性がある程度は想像できる場合があるだろうと思うのです。
そういう場合に、食べすぎでなっているかもしれないというなら、ちっとしばらく休んでみたらどうかと、そういう考え方ができないだろうかと、そんなことを思っております。最勝寺 はい,ありがとうございました。では。大黒先生,一言。
大黒 今日の講師の諸先生は変わり者と見られてきて、それだけに苦心して各々の主張を続けて来られたとお見受け致しました。
ある点ではその説が採用された場合もあった由ですが、例えば高木先生の最後のお話の中でも、意見を言っても容易には採りあげられなかったとの事。
私自身も変わり者とされてき、長年一緒に暮す妻ですらそう申します。例えば被服衛生学的には開襟が正しいと信じ、普段はそれを実行し、教授会にもそのまま出席します。
見渡すと開襟は唯一人ですから、やはり変わり者となります。通常の背広で———今の私の如く———校門を通りますと、守衛さんが、今日は大黒に何かあると判断されるほどであります。
正しい事をすると却って変わり者と目される意味での変わり者の先生にこれだけ来て載いた事は、日野先生の御努力もさる事ながら、捜せばよくもいらっしゃるものよと感歎致しました。
普通の人には変わっていると見られる事の中に、むしろ正常の道が存するのだと平常思って居ります私には、今日の司会は大層愉快であったと申上げて講師の話先生に御礼を申し上げます。
ありがとうございました。最勝寺 ありがとうございました。もう時間がまいりましたけれども総括討論の締めくくりを,矢野先生にお願いします。
矢野 まだ討論は尽きませんが,またこちらから発言をお願いしたい方もおられますが、時間も過ぎてまいりましたので、このへんで終わらせていただきます。
今回も専門領域を異にする先生方に、それぞれの立場からお話いただきました。
その中で、かなり共通した考え方や指摘がうかがえたように感じました。
すなわち、自然は多様であって画一的でないことに注目すべきであること、さらに、今日おかれている環境条件の下では、私どもは、既存の自然観や生命観・疾病観について考え直してみることが必要ではないか、と問いかけられたように思います。
そして、現代の状況は、理解するとか、告発するという段階にとどまるのでなく、実践し、変革し、創造する、そのような行動に参画することが必要である。
抽象的な表現ですが、そのように感じました。
本日の集りが、明日からの行動を変えてゆくことの1つの契機になるであろうことを期待しまして、本日の会合を終わらせていただきます。
師走の日曜日、お忙しいところ、お集りいただきましてありがとうございました。